2025年日本におけるHER2陽性乳がん治療法と最新標的療法の動向
2025年現在、日本におけるHER2陽性乳がん治療は、手術、化学療法(抗がん剤)、放射線治療を組み合わせた基幹療法が中心で、HER2を標的とした分子標的治療薬が重要な役割を担っている。特にトラスツズマブ(ハーセプチン)やペルツズマブ、ラパチニブなどの抗HER2薬は早期から進行・転移性乳がんまで幅広く使用されており、治療効果向上に寄与している。
HER2陽性乳がんの治療の基本構造
HER2陽性乳がんの治療は、手術、化学療法、および放射線治療を患者の状態やがんの特性に応じて組み合わせて行われます。
- 手術: 乳房温存術や乳房全摘術が選択されることが多く、術後はセンチネルリンパ節生検によりリンパ節郭清の必要性を評価します。術後の入院期間は温存術で約4日、全摘術や郭清を伴う場合は約1週間です。手術の計画は5~7週間の期間で調整されます。近年は術式の低侵襲化や、患者の体力やライフスタイルを考慮した柔軟な手術戦略が推奨されており、手術後の機能回復を早めるリハビリテーションも充実しています。
- 化学療法: 代表的な薬剤としてはアンスラサイクリン系のドキソルビシンやタキサン系のパクリタキセル・ドセタキセルがあり、1~2週間の間隔で投与されます。これらは抗HER2薬と併用し、手術前後に腫瘍の縮小や再発予防の目的で使用されます。近年は投与スケジュールの工夫により、副作用管理を行いながら治療効果の最大化を目指しています。例えば、分割投与や減量といった調整で患者の体調に合わせやすくなっています。
- 放射線治療: 手術後の局所再発リスクを軽減する目的で行われ、乳房温存術後は5~6週間程度の照射期間が一般的です。乳房全摘術後では、多発リンパ節転移例などで胸壁やリンパ節領域に照射される場合があります。近年は強度変調放射線治療(IMRT)や定位放射線治療など、正常組織へのダメージを抑制する高精度放射線技術の導入が進み、副作用の軽減と治療効果の両立が図られています。
治療はがんの性質、進行度、薬剤耐性の有無などを考慮し、個別に最適な計画が策定されています。
HER2標的薬の活用と効果
2025年の日本において、HER2標的療法は乳がん治療の重要な選択肢となっています。主要な分子標的薬には以下のものがあります。
- トラスツズマブ(ハーセプチン)HER2に結合し、がん細胞の増殖を抑制します。早期乳がんから転移性乳がんまで幅広く使われており、抗がん剤との併用で効果が向上するとされています。副作用としては心機能障害のリスクが知られているため、定期的な心機能検査を行いながら安全な治療継続を目指します。
- ペルツズマブHER2の異なる部位を標的にし、トラスツズマブとの併用で効果が期待されます。特に転移性乳がんの一次治療に用いられることがあります。治療効果を最大化しつつ、患者個人の耐容性に応じた副作用管理も行われており、吐き気や下痢などの症状軽減に努めています。
- ラパチニブ経口薬でHER2およびEGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害します。トラスツズマブに抵抗性が見られる場合や転移例に使用されることがあります。服薬の継続性を高めるために、服薬指導や副作用モニタリングを行いながら、治療の定着を支援しています。
これらの標的薬は化学療法と組み合わせて使用されることが多く、治療の効果向上に役立っています。ただし、効果の程度や副作用の発現状況は個人差があり、担当医師と相談のうえ慎重に治療を進めることが重要です。
最新の治療動向:手術省略と副作用軽減の取り組み
手術省略の検討について
近年、抗がん剤や放射線治療の進歩に伴い、一部の患者に対して手術を省略する可能性が研究されています。特に、術前化学療法によって病理学的完全奏効(腫瘍が検出されない状態)と判断された場合、画像診断や生検による慎重な確認のもとで放射線治療や経過観察の選択肢が検討されています。
- ある小規模な研究では、完全奏効と判断された患者の無病生存期間に良好な傾向が報告されていますが、現段階ではまだ臨床試験の段階であり、この方法が標準治療として確立されているわけではありません。専門医の間でも慎重な評価が続いており、現状は適切な適応基準の確立と長期的予後の検証が求められています。
- 手術省略を検討するには、正確な画像検査や画像誘導生検(US-VAB検査)などの高精度な診断技術が必要であり、今後のさらなる検証が求められています。実際の臨床現場では複数の検査結果や患者の全身状態を勘案し、慎重な判断が行われています。
患者さんは主治医と十分に相談し、自身の病状やリスクをよく理解したうえで治療選択を行うことが望まれます。
副作用軽減の取り組み:手の冷却・圧迫療法
タキサン系抗がん剤による治療では、末梢神経障害(CIPN)が副作用として問題になることがあります。近年、手の冷却や圧迫による物理的介入が副作用の軽減に寄与すると報告されており、日本でもこうした対策を取り入れる施設があります。
- 治療前中および治療後に冷却用手袋(凍結手袋)やサイズが合わない手術用ゴム手袋を二重に着用することによって、薬剤の手先への到達が抑制され、神経障害の発症率が下がる可能性が示されています。患者の快適性を考慮しながら、冷却時間や温度の最適化が行われているため、耐冷性の違いにも配慮しています。
- 研究の一例では、グレード2以上の神経障害発症率が冷却群で29%と、冷却をしない対照群の50%に比べて低いというデータがありますが、個人差や施設ごとの差異があるため、各患者に合わせた対応が必要です。また、冷却療法は手術後のリハビリや疼痛緩和にも一部効果が認められているため、多方面からのアプローチが期待されています。
これらの方法は比較的低コストかつ低リスクであるものの、患者の快適性や安全性を考慮しながら適用されます。
HER2抗体薬物複合体(ADC)および免疫療法の状況
世界的にはHER2抗体薬物複合体(ADC)が注目されていますが、日本国内での承認・普及状況については現時点で限定的な情報しかありません。トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)など一部ADC製剤は臨床で使用されていますが、導入施設や適応患者は限定的です。
P95HER2二重特異性抗体に関しても、詳細な臨床応用状況は明らかになっておらず、今後の臨床試験結果が注目されています。
免疫チェックポイント阻害剤は主にトリプルネガティブ乳がんでの使用が進んでいますが、HER2陽性乳がんに対する実用化や標準治療化にはまだ至っておらず、複数の治験が進行中です。免疫療法は抗HER2薬との併用で効果を高める可能性が報告されているため、2025年以降の動向に注目が集まっています。
薬剤抵抗性と転移性乳がんに対する取り組み
HER2陽性乳がんでは、腫瘍の性質やHER2の発現レベルの違いにより薬剤に抵抗性を示す場合があります。
- HER2の発現が弱陽性または陰性に近いタイプでは抗HER2療法の効果が低いことがあり、治療選択には注意が必要です。近年は遺伝子解析や生物学的マーカーの活用で抵抗性メカニズムの理解が進み、新たな治療ターゲットの発見も進展しています。
- 再発や転移した乳がんに対しては、新規薬剤の開発や免疫療法との併用の臨床試験が進んでおり、個別化医療の発展に向けた取り組みが続いています。特に、腫瘍微小環境の改変を目指した治療戦略やマルチモーダル療法による対応が模索されています。
患者の病状や治療歴を踏まえた多職種連携が重要であり、担当医師との相談を重ねながら最適な治療方針を決定していく必要があります。
日本における乳がん治療の最新状況と生活の質向上
- 乳房再建手術の件数は増加しており、患者の生活の質(QOL)向上に寄与しています。インプラントや自家組織を使った再建手術は保険適用となり、広く行われています。再建方法の多様化により、術後の形態や感覚保全にも配慮した選択が可能となっており、患者の心理的負担軽減にもつながっています。
- 乳がん検診の普及により、40歳以上の女性で2cm以下の小さな腫瘍の早期発見率が向上し、乳がんによる死亡率の減少につながっています。検診技術の向上により、低侵襲な画像診断法やAI支援技術の活用も進んでいます。
- 遺伝性乳がん(HBOC)に関するカウンセリングや遺伝子検査、家族のリスク管理などの体制も整いつつあり、個別化治療や予防に役立てられています。特にBRCA遺伝子変異を持つ患者へのPARP阻害剤の適用が拡大しており、有効性の報告が増えています。
- 治療は外科医、腫瘍内科医、放射線科医、形成外科医、病理医など多職種のチームで患者の特性に応じて行われています。多職種連携により、治療中および治療後の心身ケアや生活支援、リハビリテーションなどの包括的サポート体制が強化されており、患者のQOL維持に大きく貢献しています。
2025年に注目される新たな内分泌療法の役割とHER2陽性乳がんの複雑性
近年の研究により、HER2陽性乳がんは単一の疾患ではなく、ホルモン受容体の状態やがん細胞内のHER2発現量によって多様なサブタイプが存在し、それぞれ治療反応が異なります。特に、ER(エストロゲン受容体)陽性かつHER2陽性の乳がんでは、抗HER2療法に加えて内分泌療法を併用することで治療効果が高まるケースが多いことが注目されています。
2025年の最新データによれば、術前化学療法を施行しても腫瘍に残存病変がある場合、特にER陽性細胞が濃縮されている可能性が高く、内分泌療法を省略すると全生存率(OS)が悪化することが明らかになりました。このため、HER2陽性乳がん患者であっても、ホルモン受容体の発現状況を正確に評価し、内分泌療法の適切な併用を行うことが、生存率の向上に直結すると考えられています。
また、HER2発現が1+や2+(FISH陰性)と低発現の患者に対し、抗HER2治療薬「エンハーツ(トラスツズマブデルクステカン)」が効果を示すことが示され、この領域の治療選択肢が広がりました。これにより、これまでは抗HER2治療の適用が難しかった患者層にも分子標的療法の恩恵が届く可能性が高まっています。
その一方で、内分泌療法や抗HER2療法を組み合わせた多剤併用療法は副作用リスクも増加する傾向があるため、2025年現在では患者の体力や合併症、生活環境を十分に考慮した個別化治療計画が不可欠です。実際の臨床では、サブタイプの精密診断や腫瘍の遺伝子解析によって、患者ごとに最適な薬剤選択と併用方法が精査されており、患者満足度とQOLの向上を目指しています。
これらの進展により、HER2陽性乳がんの中でもホルモン受容体陽性患者に対する内分泌療法の重要性が増し、2025年の乳がん治療のパラダイムシフトの一端を担っています。専門医との継続的な相談を通じて、病態の最新情報を踏まえた最適な治療戦略を立てることが、乳がん患者にとって必要とされる時代です。
まとめ
2025年の日本におけるHER2陽性乳がん治療は、抗HER2分子標的薬を中心に手術、化学療法、放射線治療を組み合わせ個別化や安全性の向上に努めながら、患者の生活の質の改善を目指しています。トラスツズマブやペルツズマブなどの抗HER2薬は標準的に活用されていますが、手術省略の検討や副作用軽減策は現在も研究と臨床導入が進められている段階です。P95HER2二重特異性抗体などの新規薬剤や免疫療法については、今後の研究結果を注視する必要があります。国内では多職種が連携して患者ごとに適した治療計画が立てられており、検診や遺伝性リスク管理の普及とともに乳がんの生存率向上と生活の質改善が進む状況です。
さらには、ホルモン受容体の状態を踏まえた内分泌療法の最適活用が、HER2陽性乳がん治療におけるさらなる治療効果向上および長期予後改善に重要であることが2025年の研究で示され、今後ますます注目されていく見通しです。
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